歌舞伎か、それ以外か

【八代目尾上菊五郎襲名披露 吉例顔見世公演】@御園座

映画「国宝」の大ヒットにより世は空前の歌舞伎ブームですね。
今月の御園座公演は、なんと偶然にも劇中にある「二人道成寺」が上演されますので、相乗効果もありチケットの売上は絶好調のようです。
他にも夜の部「鼠小僧治郎吉」はそれだけで7景分(!)もあって、突然消えたり意外な場所から現れたりとイリュージョン的な仕掛け要素も満載。
公演は10/11(明日!)初日~10/26の千穐楽。皆さまぜひお越しください。

 

さて、ご存じの方も居るかもしれませんが・・・歌舞伎公演は大道具会社の守備範囲が広く、制作会社やご本人との打ち合わせに予算取り、全体のスケジューリング等々、責任が非常に大きいんですよね。
ある意味で伝統的なお祭りみたいなものなので可視化されていないルールや決まり事も多く、この数カ月は心身ともに多忙な日々を過ごしました。

図面を持って西へ東へ、真夏のクソ暑い日も大雨で新幹線が止まった日もスーツでウロウロ。
大人の事情で頼れない人や会社も多く、なかなか寝付けないくらい追いつめられた日もありましたが・・・
関係各所が本当に優しくしてくれたおかげで徐々に歌舞伎への理解も深まり、なんとかやっとココまで辿り着いたような今の状況でございます。
ちなみに本日(10/10)の今ごろは御園座での稽古も佳境に入っている頃。
僕どんな顔してんだろ。笑

歌舞伎か、それ以外か。
この業界ではそれくらい別物。常識も決まり事も普段の劇場公演とは全く違います。
特に大道具は非常に複雑で、何を決めるにも「あの時のアレ」で話が進むような特別な経験値が必要なんですね。
ミュージカルやお芝居、オペラなんかで育った僕たちから見たらまさに異世界。とは言えお約束と不文律の中で戦ってきた彼らに対する敬意はもちろんあり、秘かな憧れも感じていました。

今回は御園座の舞台に本物の歌舞伎を並べなければならないというミッションの為、無知を笑われ見下される覚悟と、そんな事すらもうどうでもいいくらいの使命感を持って臨みました。
あちらから見れば僕たちなんてイロモノ専門大道具。しかも名古屋の田舎モンですからね。

塩対応で当たり前、と腹を括って訪問した先々で頂いたのは・・・両手いっぱいの資料や舞台映像と寄ってたかっての解説、そして何かあったら頼れといただいた名刺の束でございました。
これが歌舞伎界を護ってきた職業人たちの凄みか・・・と、帰りの新幹線では妙に納得。
新参者は排除してやる!なんてよく考えたらまさに田舎者の発想だもんね。最近そんな話ばっかで被害妄想みたいになってました。お恥ずかしい。

本音を言えば現代の歌舞伎文化に思う所はたくさんあります。
でも
名を残すことに1ミリの興味も無く、ただ純粋にこの伝統文化の繁栄を願う人たちに出会ってしまうと・・・預かったバトンを握りしめて全力で走らなければ、とも思うんです。

ライトを浴びず、世間から賞賛されることも望まない、踊れない国宝たち。
映画に全く興味が湧かないのは、本物を知ってしまったからなのかもしれませんね。

いやウソです落ち着いたら映画館行ってきます。汗